夫婦喧嘩は犬も食わない
てつこが小学校かそれ以前の頃。
目つきが鋭くなる少し前の頃。
夫婦喧嘩がまた始まった
きっかけはさすがに覚えてない
ヒステリックに怒り狂うてつ母、不服そうな目で小さな声だが反論するてつ父、
たぶん夕食はまだ始まっていない。
テレビを見ながら夕食を待つてつこ。
てつこは既に泣いていた
お構いなしに喧嘩は続く
その日はなぜか、てつこは喧嘩に飛び込んだ
「けんかはやめてよー!!!!!!!」
『・・・
ウルサイ。 ヒッコンデロ!』
一瞬、てつ母が沈黙したように記憶している
言葉より何よりショックだったのは、この沈黙の間にてつこに向けられた、
敵意むき出しの眼差しだった。
瞳孔が開き確実にてつこをロックオンした。怒りに満ちた、目。
漫画のようにてつこはビクッとした。
涙も止まった。
ノーリアクションのてつ父。
そしてすぐに再開される喧嘩。
てつこが仲裁に入ったのはこの一度だけ。
次の日からはてつこは必死にテレビに意識を向けた。
無駄だ。
むしろ話しかけたら余計に怒ってしまう。
関わってはいけない。
てつこが人生最初に身に着けた、処世術だった。