私はメンヘラなんかじゃない。でも、助けてくれ(2)
自傷癖がついてきて、さすがにまずいとてつこは思い始めた。
就活を見据えて、このままじゃいけないと危機意識を持つようになった。
インターネットでとにかく精神科を探した。評判のよいところ。
掲示板のスレッドを1から1000まで全て読んだ。
評判がよさそうだなと思っても、悪い感想がちょっとでも出てくると辞めた。
1つ見つけて、勇気を出して電話をしてみる。
『新規の方の予約は1か月先じゃないと空いておりません』
『・・・じゃあ、いいです』
予約がすぐ取れないと、自分を否定されたという感情が沸き上がり、電話口で怒ったり泣いたりした。
そして口コミを読み漁り、また探し始める。
何か月これが続いたんだろうか。
その間にも自傷癖は続く。
ベランダや駅のホームといった高い所に立つと、階下や電車に吸い込まれる感覚に襲われる。
自分自身の胸が気持ち悪くなり、取ってしまいたくなる。
女性として見られていることが、とても気持ち悪いことに感じられた。
一方で当時、奇跡的に恋人ができた。
精神的に依存するのに、全く時間はかからなかった。
恋人の家に転がり込み、とにかく「一人」になることが怖くなった。
頭の中には何も具体的な体験が思い浮かんでいないのに、恐怖感だけが高まるのだ。
「外出している恋人が今事故にあって死んでしまったのではないか」等々。
とにかく常に「死」のイメージが頭の中を回る。
それをかき消すために自傷を行い、
インターネットを開いては自分を治してくれる精神科病院を探しまくった。
ただ不思議なことに、
てつこは友人や恋人といった他人の前でおかしな言動をすることは少なかった。
恐怖感やふわふわした感じに襲われたときは、さっと一人になり、はぐらかした。
さすがに傷は恋人にはバレたが、今後こんなことしません!と謝り倒した。
おかげで自傷の頻度は減った。
てつこは、自分がおかしいことに気付いていた。
そしてそれが、とても恥ずかしいことであり、一人で何とかしなければならないと思い込んでいた。
あっという間に就活が始まった。
『作り笑い』をできるようになっていたてつこは、
就職売り手市場の景気も手伝い、なんとか就職が決まった。
ある夜、いつもの通りにてつ父が買ってきたお弁当を食べていた。
この頃にはドクターショッピングを繰り返した挙句、一つのメンタルクリニックにたどり着いていた。
悪化はしないものの、良くもなってはいなかった。
ふと、てつ父に病院のことを言っておこうか、と思いついた。
てつ父は相変わらず焼酎をずーっと飲んでいる。
てつこ「実はさ・・・精神科通ってるんだよね」
てつ父「・・・」
てつこ「・・・(いつも通り返事なし、か。)
いやー、手首とか切っちゃってね。えへへへ・・・」
予期せぬ返事が返ってきた。
てつ父「あー、知ってる。知ってたよ。部屋の血って鼻血かと思ったけど。
まぁ気づいてたよ。だって、父親ですから(笑)」
ケラケラとてつ父は笑いだす。
てつこ「・・・あぁ、そうだよね、床汚れてるもんね(笑)」
二人で笑って、それ以上の会話は無かった。
夕食後自分の部屋に戻り、服を脱ぎ、傷を見てみた。
結構な切れ目が入っていた。恋人のおかげで新しいものは少なかったが。
最初の傷は多分3年位前のものだ。
そして床には落としきれない汚れも3年分。
・・・あぁ、私は
3年間、
気づかれてたけど放置されていたんだなぁ
てつ父に対して「かわいそうだから何とかしてあげたい」という
一方的な想いは「幻滅」に変わった。
てつこは就職と同時に家を出た。