てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

私はメンヘラなんかじゃない。でも、助けてくれ(3)

実家のアパートを出て、新卒の安い給料で狭い部屋を借りた。

 

とにかく必死で仕事を覚えた。

怖い先輩もたくさんいたし、理不尽な客からのクレームもガンガン受けた。

とにかく必死で会社に通った。

朝早いのが苦手で10分遅刻をしてよく怒られた。仕事で失敗してよく泣いた。

 

こんなにも、社会に出ることが辛いのかと思い知った。

誰も掃除しなくて汚くなったボロアパートの実家でも、

てつ父が買ってきたお弁当でも、

てつ母が残していった大量のブランド服や化粧品に埋もれても、

大学のときは楽だったなぁ

と、仕事から帰ってきてもしゃもしゃと総菜をつまみながら思った。

一方で、

実家暮らしの同期の子たちが楽しそうに喋っていたのを思い出す。

「私は今の彼と結婚したら退職してお母さんになるんだ」

「私はもう少し実家で暮らしながら、彼と色んなところに行きたいな」

てつこはとても不思議だった。

なんでそんなに彼氏や両親のことを信じているのか。

なんでそんなに実家にいたいと思うのか。

なんでそんなに彼の子どもが欲しいって口にするのか。

『実家』『結婚』『子ども』『お母さん』『彼氏』・・・

・・・てつこには本気でキラキラワードに聞こえて、こっぱずかしかった。

このワードを口にしたときの謎の嫌悪感。

きっと自分に対する嫌悪と、このワードに持っているイメージへの嫌悪なんだろう。

それは仕方のないことだろう、と自分に言い聞かせる。

 

そして、てつこ自身も感じたように、

やっぱり実家って楽な所なんだろうなぁと一連のもやもやを結論付ける。

正直、あの子たちが羨ましい。

 

 

…まぁでも、今が静かでちょうどいい。

 

てつこはそう思っていた。

また明日頑張ろう、といつも自分に言い聞かせていた。

 

 

 

入社数年が経ったある平日の朝、

いつも通り家を出ようと玄関で靴を履いた。

その瞬間

涙がぽろぽろと止まらなくなった。

『このまま玄関を開けたら、私は死ぬ』

 

押さえつけて忙しさで誤魔化していた、あの「死」のイメージが復活した。