私はメンヘラなんかじゃない。でも、助けてくれ(4)
いつも通り出社しようとした月曜の朝、玄関で涙が止まらなくなった。
涙は出るけど何の感情もわかない。悲しくもないし、会社が嫌だとかも思わない。
ただ、
この扉を開けて外に出たら、私は死ぬのではないか。
という、謎の考えが突如として頭の中に浮かんで消えなくなった。
今のてつこが考えるに、
この扉を開けて外に出たら、私は 自ら 死ぬのではないか。
ということだろう。
きっと本能がそれを止めたのではないか。
これもまた、なわとびをベッドにくくりつけた子供の頃と同じ。
てつこは死を度々意識してきたが、本能や理性によって阻まれた。
もし何かの弾みで本能や理性の間をすり抜けていたら…と考えると、少し悲しい気持ちになる。
その日からてつこは暫く休職した。
家にこもった。というか、ほぼ一日布団をかぶって横になっていた。
窓を閉め切りカーテンも閉めて布団をかぶっているのに、外から話し声が聞こえた。
内容はわからないが、女性二人くらいがひそひそと喋っている。
うるさいなと思い目を閉じる。
目を閉じているのに、目の前に「大きな四角い物体」が現れる。
それが自分に向かってくる。押しつぶされそう感覚と息苦しさで目が開く。
その合間合間に「天井が落ちてきて死ぬのではないか」
「トラックが突っ込んでくるのではないか」などと考えて怖くなる。
そうこうしている内に夕方になり、何か食べなければ死ぬと思い、近くのスーパーに駆け込む。
クッキーやパンをかじり、また横になる。
「何もしていないのに一日がもう終わってしまう」そう思って夕方から夜中まで泣き続ける。
外に出るときは鍵を閉めたか不安になり、何度も家に戻る。
ズボンをはき忘れた気がして何度も足を触る。
電車に乗ると息苦しくて汗が出てくる。
恐怖や焦り、恥ずかしさといった負の感情しか起きない日々が続いた。
この頃は会社の産業医経由で総合病院に案内状を書いてもらい、そこに通院していた。
そこでは「統合失調症」と診断された。
初診の日に、A4のコピー用紙裏表にびっしりと『今自分が辛いこと』を書いて持って行った記憶がある。
今のてつこには、もはや書けないし、何を書いたかも実は覚えていない。
こうして書き出してみて、ふと思う。
てつこはどうやって回復したのだろう。
当時の恋人が支えてくれた
実母に絶縁宣言をした
仕事で関わる人全ては立場は違っても対等なんだと気付いた
貯金が減っていき、お金がやばいと思った
会社で受けたクレームや失敗した記憶が薄れた
・・・というところだろうか。
今でも体調をよく崩すが、当時のてつこの「症状」とはやはり違う。
あの、月曜の朝の、何の感情も考えもイメージも伴わない、涙。
今も昔もてつこはSFとか霊的なものとかよく知らないが、
『自分の中のもう一人のてつこ』
が止めてくれたのであれば、感謝しないとなぁとホントにホントに思うのであった。