居酒屋で夕食を取るアンニュイな子どもとその親を見て、リンクする「家族の肖像」
憂鬱な日曜の夜、てつこは居酒屋で酒を飲みながら周りを見渡す。
最近家族連れが多い、ように感じる。
分煙禁煙の世の中でも町の小さな居酒屋には関係ない。
もくもくしている中幼児を連れて、ファミレス感覚で飲み食いしている家族は多い。
てつ母はタバコを極端に嫌った。
ファミレスでタバコの煙がにおってくると、すぐにイライラし始めた。
タバコを吸うてつ父を臭いからあっち行けと罵倒した。
てつこは横の卓の家族を見ながら、そんなてつ母を思い出す。
当の家族の子どもたちは大体、
むすっとしていたり両親の気を引こうと大声を出したりしている。
居酒屋メニューなんて地味で飽きるだろうし空気も悪いし、そりゃそうだろう。
大人たちは酒を飲んでずーっと喋っているが。
子どもを連れてきつつも「私達気にしてません」と言わんばかりに酒を飲む家族と、
てつこが目の前にいるにも関わらず罵倒と物の投げ合いが繰り返されるてつ家が、
なんだか重なってきてしまう。
何故、彼らは子どもの存在を消してしまうのか。
しかも都合よく。
何故、彼らは子どもを理由にするのか。
しかも都合よく。
子どもがいるから普段〇〇〇ができない。
子どもがいるから離婚できない。
子どもがいるから働いてお金をたくさん稼がなきゃいけない。
子どもがいるから・・・
子どもがいるから出来ないことや不便なことははたくさんあるだろう。
ただ、それは子どもが出来る前や大きくなった後にやればいいのではと言いたくもなる。
てつ母はよく『あなたのため』とてつこに言った。
『あなたのためよ』と言いながら高級なレストランに行き『このワインを一緒に飲みましょ?』と満足そうだった。
『あなたのためよ』と言っててつ母は通院を勝手に辞めて家に居続けた。『てっちゃんの近くにいたい』と泣いていた。
『あなたのものよ』と言いながら家中の家財にてつこの名前シールを貼った。『これでこの家の財産は裁判があっても全部てっちゃんの物よ』と笑った。
思い出すだけで寒気がする
なんでお前らは全部子どものせいにするんだ?
なぁ、お前ら、そうやって責任転嫁してるだけだろ?
「自分がそうしたいから」って素直になんで言えないんだ?
子どもは親の従属物ではない。
だから一人の人間として尊重されなければならない。
だが、親が子どもにご機嫌を取るのは違う。
子どもに嫌われたくないから『あなたのため』と言ってご機嫌を取り、
本音は『子どものせい』だから私は悪くないと思い込む。
居酒屋で家族で食べたっていい。楽しくておいしければそれでいい。
ただどうしても、つまらなそうにタバコの煙を手でかき消している子どもを見ると、
てつ母とてつ父への苛立ちを思い出してしまう。
そう、それはてつこが抱く、個人の勝手な苛立ち。