てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

てつこは星座早見表の使い方を覚えていない

てつこは小学校に上がる前から、子供用の学習教材でお勉強をしていた。

それなりに続いていたのは、勉強のテキストよりも付録が好きだったからだ。

簡易の顕微鏡や酸性・アルカリ性を実験するキット等々、

化学や生物っぽい付録が特に好きだった。

 

その内てつこが気に入ったのは星座早見表だった。

田舎で夜は暗い地域に住んでいたてつこのアパートからは、多少星が見えた。

夜出歩くのはさすがにできなかったので、

ベランダから見上げて星座を探した。

夜ファミレスに行く時にも星座早見表を持って出るまでにハマった。

 

夏休みの頃、突然てつ父が天体望遠鏡を買ってきた。

結構大きかったので、そこそこ良いやつかもしれない。

てつこはすごく嬉しかった。

狭いアパートのベランダに、星を見る都度設置してくれた。

しかし天体望遠鏡の扱いや組み立て方がなかなか難しいらしく、てつ父は苦戦していた。

正直めんどくさくなったのか、ベランダに設置される回数は減っていった。

それでもてつこはすごく嬉しかった。

今星座にハマっている、ということをてつ父が知ってくれたことが単純に嬉しかった。

てつ父が組み立ててくれる日は、二人一緒に望遠鏡を覗き込んだ。

 

ある日いつもの夫婦喧嘩が始まった。

ただその日、てつ母の怒りの矛先は天体望遠鏡に向かった。

『こんな高い物を勝手に買ってきて!』

『たいして使ってないくせに!』

 

嫌な予感がした。

てつこの視線がテレビからてつ母に向いた。

 

てつ母はベランダへの扉を全開にした。

そして天体望遠鏡の入っている箱を持ち上げて

 

 

放り投げた。

 

パリーン!!!

とガラスの割れる音が響いた。

水筒を落とした時のような、中で何かが割れる音だった。

箱はぐしゃぐしゃになり、天体望遠鏡の一部が飛び散っていた。

 

てつことてつ父が止める間もない出来事だった。

二人はその場に呆然とした。

 

 

ここからはてつこの記憶が曖昧だ。

てつこは泣きながらベランダに拾いに行こうとした気がする。

てつ父は「危ないからいいよ」とてつこを制した気がする。

そしててつ父がほうきでベランダを掃いて、ぐしゃぐしゃの箱に割れた破片を捨てていた気がする。

 

翌朝にはベランダはきれいになっていた。

天体望遠鏡の存在は無かったことにされた。

それきりてつこは星座早見表を見ることを辞め、学習机の奥底にしまい込んだ。

 

 

途中までは楽しい思い出だった。

なのに全部ぶち壊された。

てつこの子ども時代の思い出なんて、全部そう。

全部ぜんぶ最後の最後で台無しにされて後味悪くなる。

1から9まで楽しくても最後の一つで悪くなると、不思議とその一つだけが印象に残る。

『終わり良ければ全て良し』って、人間の真理そのものだ。