てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

美味い餃子を食べながら、悲しい餃子を思い出す、しょぼいフラッシュバック

近所の中華定食屋でてつこは昼食をとった。

そこの餃子は大層評判で、皮はパリパリで中のあんは今流行りの

肉汁じゅわーのニンニク控え目…の真逆をいく「正統派」餃子だ。

てつこは至福の時を嚙み締めた。

 

しかし突如として苦々しい記憶とともに、

餃子が一瞬だけ無味になった。

 

そういえば、昔はなちゃん家で餃子パーティやったな…

 

なんてことない、ホームパーティにお呼ばれした時の記憶。

てつこのカルチャーショック体験だった。

 

はなちゃんはちょっと裕福な家庭だった。

気持ちの優しいはなちゃんは誰とでも仲良くなれる良い子だった。

はなちゃんのママも優しい人で、娘の友人たちともそのママ達とも交流があった。

てつ母もはなちゃんのママとよく会っていた。

ある日、はなちゃん家にお呼ばれした。

他の友人達と数人でお邪魔した。

きれいな一戸建てに到着すると、はなちゃんと猫が出迎えてくれた。

リビングに行くと大きなテーブルに大きなホットプレートが置いてある。

なんだろう?と見ていると、

「待ってね!今ママと餃子作ってるから!」

と言われた。

 

なんということでしょう、餃子を包んでいるではありませんか。

餃子ってコンビニやスーパーで買うもんじゃないのか…?

ってかなんでそんな楽しそうに餃子包んでるの…?

 

てつこは呆然と立ち尽くした。

 

はなちゃんのママも「?」と思ったのだろう、

「ここに座ってていいのよ、もうすぐだから待っててね」とお茶まで出してくれた。

 

 

・・・なんてことない、ホームパーティの一場面。

他の友人たちは猫と遊んだり勝手にゲームをしたりしていた。

てつこだけ、ずっと立ち尽くしていた。

 

当時のてつこは、たぶん羨ましいとか妬ましいとか思っていたわけではないと思う。

そういった負の感情を認知する以前に、

てつ家と違う環境に馴染めずにどうすればよいのかわからなかったのだろう。

リラックスして母娘が会話しながら笑っててママが「できわたよー」と号令をかける、

それが当時のてつこには馴染めなかった。

 

環境の違いの他に、てつこの頭の中でてつ母から吹き込まれた情報がぐるぐると回っていた。

ホームパーティに呼ばれる前から、てつ母は

はなちゃんのママに関する本当なのか嘘なのかわからないエピソードを

てつこに話し、仕舞いには人格を否定するような文句も言っていた。

子どものてつこは「てつ母の方がおかしい」と

知ってはいたが、やはり変な情報があれば混乱するお年頃。

今思えば、てつ母の悪いところはそういうところだ。

 

 

 

かなり昔の記憶なのに、呆然としていた感覚が蘇る。

はっと我に帰り水を飲んだ。

そういえばあの時の餃子はどんな味で形だったかな…

悶々としながら店を後にする。

今度は余計なことは思い出さずに美味しく食べたいな。