お弁当からにじみ出る思春期女子の憂鬱
今週のお題「お弁当」
「お弁当」の文字を見て、てつこは学生時代を思い出した。
確かあれは中学の頃、ゆみちゃんという女子がクラスにいた。
若干どころか結構浮いている子であった。
いつも口をぽかーんと開けてぼんやりと外を見ていた。
他人とあまり交わるのが得意じゃなく、一人で外を見ていた。
時々話しかけると「授業つまんない」「こんなのやりたくない」「暑い」「寒い」「めんどくさい」…等々、文句が怒涛のように出てくるので逆におもしろかった。
てつこが当時気になったことがある。
ゆみちゃんはよく家族への文句をよく言っていた。
「お母さんがこれを持っていけっていったから、邪魔なのに」「お姉ちゃんがテレビ見るのを邪魔をする」「お父さん気持ち悪い」…等々。
極めつけは、彼女のお弁当の2つあるおにぎりの内、1つを必ず残すこと。
理由をたずねると
「お母さんが持っていけっていうから持ってきた。けどいらない。」
「こんなのお腹いっぱいで食べられない」
とのこと。
てつこから見ても、確かにしっかりとしたサイズのおにぎりだった。
ゆみちゃんはかなりの痩せ型だったので、食が細くて余計に食べられないのであろう。
おにぎりを必ず残すゆみちゃんとは対照的に、
一緒に食べていたりえちゃん(背の順で一番後ろになるタイプ)は男子用かと見まごうばかりの立派な弁当を完食していた。
ただ、食べながら必ず「やだ~、太っちゃう」とぼやくのがお約束。
そして「おにぎり勿体ないから、あんた食べなさいよ」とゆみちゃんを諭すのであった。
中学高校の女子のお昼は、OLの見栄トーク大会のお昼なんかよりずっとおもしろい。
太るからといってお弁当を残す女子、
けどこっそりパンを買って食べてるのがバレてからかわれる女子、
食べないと死んじゃうと言いながらガチで食べ盛る女子、
部活の昼練のために秒で食べ終わる女子、
男子のように午前中にお弁当を食べちゃって友人から恵んでもらう女子、
いらないおかずを迷惑なおせっかいで友人に分け与える女子、
普段元気なのにお弁当を見られたくなくてお昼時間は一人どこかに行っちゃう女子、
色んな子がいて楽しかった。
当のてつこは、てつ父が作ってくれた弁当を食べていた。
手先の器用なてつ父は仕事帰りで疲れていても、ちゃちゃっと作ってくれた。
冷凍食品ばかりだったけど、シソの葉やわさびシートをお弁当につめて痛まないよう工夫してくれた一品だった。
実はてつこも体重を気にして、かなり小さいお弁当箱だった。
てつ父はよく「足りるのか?」と心配した。
大丈夫と笑っていたが、本当は足りなかった。けど、これ以上てつ父に負担をかけたくなくて小さなお弁当で我慢してしまった。
作ってくれるだけで良かった。感謝していた。
だからこそ、ゆみちゃんが文句をぶつぶつ言っておにぎりをわざと残すことが、当時のてつこには信じられなかった。
勿体ないじゃないか。
りえちゃん同様、食べなさいよ~とてつこも注意したものだ。
それでも彼女はアルミホイルを開けようともしなかった。
大人になった今思う。ゆみちゃんはおにぎりを残すことでお母さんに反抗していたのかもしれない。
きっと家に帰って、わざとおにぎり残したことを見せてるんだろうな。
毎日その攻防が繰り広げられたとなると、ゆみちゃんも母親も相当頑固者だ。
今のてつこは会社のお昼時間、追われるようにぱぱっと食べている。
学生時代は色んな情景があの「時間」の「お弁当」に詰まっていたんだなぁと思うと、
なんだかしみじみして一曲歌ってしまいそうである。