「あなたのためよ」の「あなた」はだぁれ?
このレビューを見て重なるものがあった。
てつこが学校から帰ったある日、家の家具や家電に違和感を感じた。
あることに気付いてぎょっとした。
全ての物にてつこの名前シールが貼ってあるのだ。
テレビ、ステレオコンポ、たんす、食器棚、化粧台、ダイニングテーブル etc.
「びっくりしたでしょ?笑」
てつこの後ろにてつ母が立っていた。
「これ、ぜ~んぶ、てつちゃんの物よ。」
・・・突然の展開に小学生のてつこはついていけなかった。
「もし悪い人がてつちゃんとママの生活を壊そうとしても、こうやって所有権はてつちゃんにあるとアピールすることで守れるのよ。だから安心して。てつちゃんの生活はママが守ってあげるから。」
???
とりあえず、全ての家具家電はてつこの物らしい。
てつ母のトンデモ理論を一通り聞いた後、いつもの言葉で締めくくられた。
「てつちゃんのためよ」
てつ母の口癖だった「てつちゃんのためよ」の破壊力は未だに大きい。
自分の人生を娘に背負わせる無知の言葉。
てつ母はそんなつもり無いわと言い張るだろう。
だがこの『あなたのためよ』という言葉、
てつこは大嫌いだ。
『あなたのため』?
『あなた』って、どうせお前のことだろう??
お前自身のことを娘に重ねているだけだろう???
偽善の言葉。
無知の言葉。
こんなにもシンプルで面倒でやっかいな言葉はなかなかない。
てつ母は結局てつこに何をさせたかったのか。
てつこに背負わせて最終的に何をしたかったのか。
繋がりのない今ではもうわからない。
ただ今わかるのは、友達であり恋人であり保護者でありパシリである、
通常の「母と娘」を超えた関係性を確かに期待されていたこと。
てつこを通して自己実現しようとしていたかもしれない。
てつこを通して満たされようとしていたのかもしれない。
いずれにせよ、てつ母はてつこに対して『境目』を持ち合わせていなかった。
それが一番気持ち悪い。
先のレビューにも『ドロリとした感情』という表現が出てくる。
そう、まさに、そう。
てつこの醜く歪んだ気持ちにてつ母の執念がこびりつき、傷口が裂けてドロッと出てきてしまうのだ。しばらくは止まらない。
異質な関係に身を置いていた事実、これが未だにてつこを苦しめる。
ここしばらく、こんな気持ちからは離れていたが久しぶりに湧き出てしまった。
昔と違って距離を置けそうなのが幸いだ。
裂けた傷口にかさぶたが出来るまで待とうじゃないか。
それにしても
気
持
ち
が
悪
い
。