毒母が先か、毒娘が先か??
てつ母は破壊的な人だった。
借金と暴力を重ねてつ父を精神的に追い詰めた。
時に褒めちぎり、時に罵倒することでてつこを言いなりにした。
金を無心し「お前らが悪い」と事あるごとにてつじい&てつばあに吐き捨てた。
そんなてつ母にも「自分がこうなった理由」がちゃんとあった。
自分の父母であるてつじいとてつばあから、ひどい扱いを受けたということ。
そう、てつじいとてつばあもまた、毒親だった(らしい)。
てつ母はてつこが小さい時から、てつ母家の昔話をよくした。
てつばあは、てつ母が病気になって倒れても塾に通うのを強要した。
とにかく勉強を最優先させる教育ママだった。
てつじいは、そんなてつばあの教育方針に無関心だった。
そして、てつ母に対し性的ないたずらをした。
・・・とてつ母は話していた。本当か嘘かは正直わからない。
この話はいつもこう締めくくられる。
『あいつらのせいで、私の人生はめちゃくちゃなんだ』
てつこにとって、てつ母は実の母だ。
てつじいもてつばあも、優しいおじいちゃんとおばあちゃんだ。
その背景に何があったのかなんて、本当は知りたくもない。
ただ、この昔の話を思い出すたびに疑問が浮かぶ。
歪んだ教育ママのてつばあが先か?破壊的な性格のてつ母が先か?
「ニワトリが先か、卵が先か」と同じ。
てつばあがちょっと違った育て方をしてしまったせいで、
てつ母という存在が出来上がったのか。
それとも、元々モンスターの素質を持ったてつ母が成長し、
てつばあやてつじいが操られてしまったのか。
てつこは今まで色々な人と出会ってきた。
確かに、その中には「?」という性格の人がいる。
どうしてそんなひどい発言をするのだろうか。
どうしてそんな突拍子もない考えをするのだろうか。
どうしてそんな人を傷つけるような言動をするのだろうか。
良心が無い人、それは先天的に存在しているとてつこは思っている。
生まれ持った性格や思考が、常識から離れている人は少なからず、いる。
そういった良心の無い部分が、成長段階で助長されてしまうこともあるだろう。
理解が足りない親に育てられ「出来上がってしまう」のだ。
そうなると親も太刀打ちできない。
子ども自身も止められない・親も止められない、負のスパイラル。
こうなるとどっちが先かはわからなくなる。
いずれにしても、嫌なことを他人や自分の子にしてはいけない。
『あいつが悪い』と仕返す、しかも家族間で仕返すことほど醜いものはない。
毒親を反面教師にしていかないといけないのだ。
それが毒親の元に生まれた者の使命。
いつまでも囚われてはいけない、そうてつこは考える。
それでもやっぱり「どっちが先なんだろう…」結論付けたくなる。
数年前、年老いて小さくなったてつばあに、てつこは言った。
「ばあちゃん、もうてつ母のことは構わなくていいよ。
てつ母の家にご飯作って持って行かなくていいよ。
てつ母の家の掃除なんてやんなくていいよ。
ばあちゃんの余生は少ない。せめてのんびり暮らしておくれよ。」
てつばあは悲しそうに言った。
『いいんだ。ああなったのは、全部ばあちゃんのせいなんだ。』
てつこは泣いた。
自分の親にあんな悲しい顔をさせるてつ母が許せなかったし、
全てを背負いこむ視野の狭いてつばあも許せなかった。
どっちが先で、どっちのせいなのか。
てつこがこの答えを導き出せる可能性は、今となっては低い。