てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

本音が怖い。

仕事帰り、楽をしようと思ってファミレスに立ち寄った。

好きな物を食べよう♪と思いながら、メニューとにらめっこする。

通路を挟んで目の前の席には、母娘と思われる女性と子どもが座っていた。

たぶん、その子は塾帰りなのだろう。

テストがどーたらこーたらと話していた。

それに対し、母と思われる女性が

「いや、だからぁお前はこうなるんだよ!」

と一言ぴしゃりと言った。黙る子ども。

 

あーあ。

「お前」って。ひどい言葉遣いだ。

なんて険悪な母娘関係だ。

・・・てつこは視線を落とし、心の中でそう思った。

かわいそうに。

・・・てつこは再度、視線を母娘にやった。

すると。

 

二人は笑っていた。

そして母らしき女性は子どもに対し、

「こうしたら?」とアドバイスしたり

時折褒めたりして、和やかな雰囲気になっていた。

子どももそれに対して何か答えていた。

 

てつこは一人、空しい気持ちになった。

さっきまで「かわいそうに」とか思っていたけど、どうやら違ったようだ。

ああ、そうか。

この二人は『本音』で喋っていたのか。

子どもは素直に思ったことを言った。

母はそれに対し本気で怒り、その後フォローもした。

そして分かり合って、笑い合った。

 

いいなぁ。

 

出てきたハンバーグをもぐもぐ食べながら、うらやむ。

楽しそうに手を繋いで退店していく二人を見送る。

その背中を見て、ふと思う。

『・・・そうだな、私は本音が怖いんだな・・・』

 

本音が怖い。

本音を言って自分をさらけ出すのが怖い。

本音を言って嫌われるのが怖い。

本音を言って拒絶されるのが怖い。

 

また一つ、自分の弱さを知る。

そういえば、今日また仕事でいらんことを言ってしまった。

あの時恥ずかしかったなぁ。

今知った弱さと、思い出した今日の恥ずかしさが混ざり合って

なんとも言えないどろっとした気持ちになる。

それを無理矢理ビールで押し込む。

ファミレスだけど、お酒を頼んでおいてよかった。

そうやって今夜もごまかした。

ごまかし、

ごまかし。

そんなんだから夜中起きちゃうんだろうなぁ。

どろっとしたものが横になると漏れ出ちゃうんだろうね。

 

そうして朝が来る。辛い朝が。