ひな人形さんたち、ありがとう。
土曜の昼、てつこは晩御飯の材料を買いにスーパーへ出かけた。
その途中、いつも通りかかる保育園があるのだが
何気なく目をやると、先生と子どもたちが楽しそうに過ごしていた。
その奥に2段くらいのひな人形が飾られていた。
あぁ、そうか、ひな祭りかぁ。
実家を出て一人になって、勿論ひな人形を飾ることはない。
すごく久しぶりにひな人形の姿を見た気がする。
懐かしいなぁ。
自然と子どもの頃を思い出す。
狭い狭いてつ家だったが、人並みにひな人形はあった。
しかも、七段のやつ。
馬車とかお重箱とかの飾りも充実していて、それはそれは立派だった。
どうやら、てつこのばあちゃんが買ってくれたものらしい。
今ネットで検索してみると40万前後はするようで、
相当奮発してくれたんだなぁと思う。
確か、てつこが幼稚園の頃は毎年飾っていた。
おかげで家族3人並んで寝る場所がなくなるくらい、大きかった。
てつこは誇らしかった。
こんな立派なひな人形が家にあるなんて、嬉しかった。
そしてあのニオイも好きだった。
ただの防虫剤のニオイなのだが、
それを嗅ぐとひな祭りが来た実感がわいて、好きだった。
ひな祭りの日には大好きな子ども用甘酒を買って、
ケーキを買って、ちらし寿司を食べた。
太るよ~と注意されながらも、甘酒をたくさん飲んだ。
あの頃からお酒が好きだったんだなぁ。
小学生になり、ひな人形を出す日が遅れ始めた。
今思えば、てつ母とばあちゃんの関係が悪くなった時期でもある。
いつも飾ってくれた、ばあちゃんが来てくれなくなったのだ。
それでも、てつこはひな人形が大好きだった。
だから、自分で飾ろうとタンスの奥から箱を引っ張り出しては
よくてつ母に怒られた。
渋々出してはくれるものの、物置部屋として使っている
ほこりっぽい部屋に、七段のひな人形は飾られた。
それでもてつこは嬉しくて、その部屋で一人甘酒を飲んだ。
小学校3年~4年くらいだったかな?
それくらいになるともう飾られることはなかった。
てつこも、引っ張り出すことはしなかった。
誰もお祝いしてくれないって知ったから。
実家を引き払ったときに、あのひな人形はてつ父が処分してくれたのだろう。
楽しい思い出も、寂しい思い出もたくさん詰まったあの人形。
すごく短い期間だったが、てつこの頭の中では今でも鮮やかだ。
せめて供養してあげたかった。
ばあちゃんがてつこの幸せを願って買ってくれたひな人形。
とても立派なひな人形。
ひな祭りって(準備とか大変だけど)いいもんだね。
てつこは、書き出してちょっと泣いてしまったけど、
でもこうやって色々思い出して、
ばあちゃんの願いも思い出せて、
良かったのかなぁと思う。
世の中の女の子や全ての子どもたちに幸あれ。