出来損ないの悪い娘ということにしてくれ。パパ。
てつこの父は背が高くて元々細身だった。
当時の女子社員からプレゼントもらったりしていたし、
歳をとってからも離婚してすぐ彼女ができたりもしたし、
そこそこモテるタイプでもあっただろう。
でも傍から見ていて、とてもじゃないが出来た人間ではなくて、
大分不器用な方だったと思う。
だから母は年中イライラしていた。
段々と母が父に対して心身ともに暴力を振るうようになって、
父はより細く小さくなっていった。
そんな背中を見るのがてつこはとても辛かった。
今でも、街中で父と似た背格好の姿を見るとはっとする。
ボサボサの白髪だらけで、背が高くて細くて、
ジーンズを履いている後ろ姿を見ると、
「パパ・・・?」
と声をかけたくなる。
違う人なのに。
けれど、それくらい心がざわついてしまう。
その度に「私の心にはいつも父が引っかかっているのだな」と思う。
父がてつこに手を挙げたことはない。
経済的にもしっかり面倒を見てくれた。
心から感謝している。
なのに、どうしても『父』として見れないのだ。
それが嫌悪なのか軽蔑なのか同情なのか、何なのかわからない。
考えようとすると涙が出てくる。
彼の姿を思い出すのがつらい。
てつこは父と向き合ったことがない。
父も、てつこと向き合ったことはない。
てつこが彼に色々問いかけても、ヘラヘラと笑うだけで
何も喋ってはくれなかった。
お互い何を考えているか言わないまま、連絡を取らなくなった。
父は仕事をやめてしまった。
経済的に困っているだろう。保護は受けているようだけれども。
てつこがいっぱい稼いでいたら、一緒に住めたのだろうか。
いや、お互い大人なんだから、社会人なんだから、
自立した生活をするのが普通なんじゃないだろうか。
連絡を取らなくなった今でも、ぐるぐると考えてしまう。
昔連絡を取り合った親戚からいつか連絡が来るかもしれない。
父の生死に関わる事態が起きたら。
それでも会いに行かない気がする。
出来損ないの親不孝な娘は、もう全てを忘れたいのだ。
あの苦しかった日々を。
実家も友達も親戚も、もうない。連絡も取っていない。
親だとしても、もう、ない。
てつこは一生この複雑な思いを背負って生きていく。
父に対しての行いも、いつか自分に返ってくるかもしれない。
そう思って生きていく。
ありがとう、そして、ごめん、パパ。
父の日は毎年苦しい。