てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

身体の弱さ、心の脆さ、信頼の薄さ(2)

てつ母は体調が悪くなるにつれ、不思議な言動も増えていった

お酒を飲んでいないのに朦朧としていたり、

「私は昔歌手だったのよ」と嘘のような話をするようになっていった。

 

いつも通り喧嘩をしていた夜のこと。

てつ母はまた朦朧とし始めた。そして突然、

「おくすり かいに いく…」

と言い始めた。確かによく行く薬局はあった。だが、時計は夜中の12時だ。

てつこは止めた。今は夜だからやってないよ、と。

 

「ううん おくすり かい いく」

 

てつ母は足を止めなかった。サンダルを履いて玄関から出て行った。

そのすぐ後、大きな物音と女性の悲鳴が響いた。

てつ家は2階にあって、すぐ側に階段があった。

嫌な予感がした。

てつこはドアを開けて外の廊下に飛び出した。

サンダルが点々と脱げていた。

それを追っててつこが行くと、階段の下にてつ母がうつぶせに倒れていた。

 

「ねえ!階段から落ちた!救急車よんで!」

てつこは急いでてつ父に言いに行った。

その時の目が怖かった。

てつ父の

冷たい目。

 

怒りなのか、うざかったのか、ざまあみろと思ったのか、全くわからない。

 

ただ、てつ父はてつこの言葉に何の返事もしなかった。

ただ、無言でてつこをにらみ続けた。

勿論、救急車は来なかった。

何分経ったんだろう、てつ母はいつの間にかふらふらと家に戻ってきて横になった。

 

てつこはまた何もできなかった。

いや、何もできなかったんじゃない。

何もしてもらえなかったんだ。

てつこはちゃんと言ったんだ。

なのに

なのに

何もしてもらえなかったんだ。

 

てつ家にはもう既に「絆」なんて無かった。