てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

パパの出社を見守る少女の、表と裏

小さいてつこには朝の日課があった

てつ父の出社を見守ること。

玄関でバイバイをして、近くの駐車場からてつ父の乗った車が無事発車したかを窓から見る。

窓から車が見えなくなるまでバイバイした。

それはそれはとても心温まる風景

 

・・・でてつ家は終わるわけがない。

 

てつこがてつ父を見送るには訳があった。

てつ父が無断欠勤していないか、ちゃんと会社に行ったのか、確認をしていたのだ。

 

喧嘩のレベルが上がるにつれ、てつ父は感情を表さなくなっていった。

帰宅した途端に物を投げつけられ、言いがかりをつけられて罵られるようになっていた。

てつ父の不思議なところは、ほとんどやり返さないところだ。

最初の頃は大声で怒ったり否定したり、てつ母の手を振りほどいたりしていた。

それは段々と無くなり、なんだよ…と不満を漏らす程度になっていた。

 

ある日の昼、てつ父の会社から電話がかかってきた。

「てつ父さん、来てないんだけど。」

 

てつ母とてつこは驚いた。朝いつも通り家を出て行ったのに、何故?

携帯なんかない頃だから、連絡の取りようがない。

まさか、事故に…

 

玄関のピンポンが鳴った。

近所のおばちゃんだった。

「お宅の旦那さん、車の中にずっといるけど、大丈夫なのかしら?」

 

駐車場に行くと、てつ父は運転席を倒して寝ていた。

 

てつ母は鬼のような形相で窓を叩き、てつ父を引っ張り出した。

てつ父はぶすっとしたまま、てつ母の怒号を浴びる。

ご近所さんもうるさくて迷惑しただろう。

 

この日から同じことが度々起きた。

普通に出社することもある。

てつこは「今日会社行く?」と不安そうに聞くと、笑いながらてつ父は「行くよ」と答える。

それでも行かない日があった。

だから窓から確認できるところまで確認するようになった。

そして嬉しそうにてつ母に「てつ父の車がちゃんと出たよ!」と無邪気に教えるのだった。

てつ母は笑っていた。

 

笑うしかなかったよね。