てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

8月になると思い出す、ある夜の出来事

学生時代、夏休みに友人の家に泊まらせてもらったことがある。

ご家族は温かく迎えてくれた。

広くてきれいな家だった。

人の家に泊まる経験があまり無いため、とても緊張した。

その緊張を察してか、友人父&友人母の二人ともが

「そんなに気を遣わなくていいよ」

とニコニコしながら部屋に案内してくれた。

 

緊張の余り、最初の内は部屋からあんまり出られなかった。

それでもリビングに呼ばれて行ってみると、

「ここ座りなよー」と気軽に声をかけてもらった。

 

少しずつ馴染む中、てつ家と雰囲気が全く違うことに気付いた。

てつこの友人もそのご両親も、超自然体だった。

張り詰めた空気が無かった。

「醤油ある?」「あるよ」「取って~」「あいよ」

みたいな、超何気ないやり取りがたくさんあった。

これが一般家庭なんだなーと、しみじみ思った。

ようやくリラックスして、一日目の夕飯が終わって部屋で休んだ。

 

その夜だった。

夢を見た。

ガリガリでやせ細ったてつ父がソファにもたれかかってテレビを見ていた。

てつこはてつ父をじっと見ていた。

てつ父はてつこの方に向くことは無かった。

テレビからバラエティ番組なのか、楽しげな音が流れてくる。

振り返るとてつ母がいた。

背筋がぞっとして、てつこは身構えた。

てつ母は怒りに満ちた目でこう叫んだ。

『この裏切者!!!』

 

てつこは飛び起きた。

汗がだらだらと流れ、ベッドが湿っていた。時計は夜中だった。

涼しい日だったのでエアコンはつけずに窓を開けて網戸にしていた。

いつも見ていた外の風景とは違う。

安心した。あぁ夢だ、と安心した。

 

少し間をおいて涙が止まらなくなった。

隣の部屋の友人に聞こえないように、うぅっ…と声を押し殺した。

怖い、悲しい、寂しい、羨ましい、、、そんな負の感情が心の底からあふれ出た。

昼はそんな感情、微塵も無かったはずなのに。

もしかしたら…こういうのがトラウマとかフラッシュバックとかいうやつなのかなぁ

とひとしきり泣いてから思った。

 

この夏の夜からだ。

本を読んだりネットで調べたりニュースに関心を持ったりして知ろうとしたのは。

トラウマだろうと何だろうと、もはや何でもいい。

とにかくこんな辛い涙を流すのはもう嫌だった。

今はまだあまり改善できていないけれど、

少し前向きになれてきた、かもしれない。