てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

黒いワンピースと失われたファッションセンス

衣替えをしていると、てつ家から持ってきたTシャツや短パンが出てきた。

もう10年以上前のもの。だが何着も同じものを買うてつ母のおかげでまだ未使用だ。

勿体なくて、てつ家を出るときに少し持ってきたのだ。

 

てつ母は良いと思った物を何個も何着も買い込む人だった。

ただ、元々てつ母とてつこの好きな洋服の系統は違う。てつ母はフリフリヒラヒラキラキラ、てつこはシンプルな機能性重視、であった。

てつこは一時期、必要以上にシンプルな格好に徹した時があったけれども。

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色々と要因はあるけれど、元来てつこはシンプル派だった。

当時から(今も)ユニクロが好きだった。

小学校高学年になり、家族で洋服を見に行く時にリクエストしたのはユニクロだった。

あそこなら安くてカラフルな服がたくさんある。

フリフリでお高い洋服好きなてつ母はいつも不満げだった。

 

てつこが中学生になったある日、家族で大型スーパーへやってきた。

洋服ゾーンもある大きな店。ファッションに興味の出てきたてつこは、自分で服を選びたい年頃になっていた。

しかし相変わらずてつ母はフリフリを買い込み、着せてくる。

反抗しても負けてしまうてつこは諦めモードだったが、やはり思春期になり人の目が気になりだした。そして服くらい自分で選んで着たいという気持ちが高まった。

 

てつ「あのぅ…あそこの服売り場見に行っていい?」

恐る恐るてつ母に切り出す。

て母「あら?いいわよ♪(自分の物を選んでる)」

 

てつこがぐるぐると洋服売り場を見て、選んだのは黒いワンピース。

ひざ丈で特に装飾も刺繍もない、ちょっとスポーティな真っ黒なワンピース。

1000円しないくらいだったか。

値段もこれくらいならいいか、何よりかわいい…!!!とてつこは気に入ったのだ。

 

てつ「ねぇ……これ…欲しい」

また恐る恐るてつ母に切り出す。

て母「……

   なにこれ。かわいくない服ね。」

 

てつ母は大したことないと判断してか、自分の雑貨や服を手に持って会計に並びに行ってしまった。

ぽかーんとするてつこ。半泣きで元の売り場に戻した。

 

実はこれで終わらない。

翌週も運よく同じスーパーに出かけたのだ。そして運よくまだ売れ残っていた。

てつこはあの後、家で毎晩毎晩あのワンピースが欲しいと思っていた。

このチャンス、逃してなるものか…!

てつ「これ…買って」

て母「…はぁ?また?そんなにこれ、気に入ったの?」

てつ「う、うん…(てつ母怖すぎ笑えない)」

て母「こんな黒くてかわいくないの~(以下略、暫く続く)~

   仕方ないね、カゴに入れな」

 

勝った…!買った…!

この時の喜びと勝ち取った感を今でも忘れない。

ただ、同時に疲れも覚えた。

服一枚買うのにこんなにも戦わないといけないのか…そう思うと脱力してしまった。

 

この黒いワンピースは暫くてつこのお出かけ着として活躍した。

てつ母が買う洋服に出番は押され気味だったが。

 

結局家族で出かけて洋服を親に買ってもらったのはこの時くらいだった。

その後は『自分はブスだと言われる上に、服のセンスも無いのか』と完全に自信を無くしたのだった。

てつこは今思う、ファッションセンスって自分の興味やポリシーがあるからこそ磨かれるもの。興味が無いといつまでたっても育たない。

『自分を良く見せよう』

と思う気持ちは、他人の目、そして自分自身を大切にしているからこそ出てくるものだろう。

ちょっとオーバーかもしれないが、あの時「この黒いワンピース、かわいいね!」と言ってくれたのなら、てつこの心に良い影響があったはずだ。

それができないのが、残念ながらてつ母だった。