てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

桜が舞う時期なので、人生で数少ない甘酸っぱい話をします

全国的に桜が咲き、既に散り始めているここ数日。

ネットニュースやTwitterは桜の写真で埋め尽くされ、

その度にイイネを押す。

桜の写真はいつ見てもキレイだ。

特に、自分が行ったことのない場所の写真を見ると

花見に出かけた気分になって気持ちが良い。

 

花見、といってもてつこはあまり経験が無い。

数年前の1回だけ、大学時代の友人に誘われて参加したことがある。

 

地元で桜の名所として有名な公園に集合だった。

公園で飲むのかと思いきや、桜もそこそこに近くの居酒屋に入った。

20人以上いただろうか。

居酒屋の大部屋で食べて飲んでの大騒ぎだった。

思い出話に花が咲き、とても盛り上がった。

普段大勢と飲む機会があまりないので、

てつこも楽しんでいた。

 

当時仲が良かった男の先輩と席が隣になった。

おー久しぶりっすねぇと話が盛り上がる。

 

先輩「そういえば、カイ君とはどうなったの?」

てつ「…はい?カイさんと?」

先輩「とぼけるなよー」

てつ「いや、マジで話が見えないっす。何もないですよ?」

 

先輩が怪訝な顔をする。

 

先輩「…あれー。そっか。そうなのか。」

てつ「…???」

先輩「……カイ君さー、多分てっちゃんと結婚したかったみたい」

てつ「………はいぃぃぃ???」

 

混乱するてつこ。

 

先輩「だからぁ、カイ君は結婚を考えてたっぽいよ」

てつ「…え、だって、カイさんと付き合ってもいないっすよ」

 

そう。

てつことカイさんは恋人になったこともない。

告白されたこともない。

デートしたこともない。

だから、てつこは混乱した。

をいをい、色んな過程を飛び越えて『結婚』とは何ぞや??

 

カイさんは男前で女性に優しく、モテるタイプだった。

なのに女性の影がなく、飲み会に行ってもおとなしい人だった。

不思議な人だなぁと当時思っていた。

 

酔っている先輩は結婚したかったみたいだ!!とヒートアップし、

てつこの疑問に耳も貸さない。

いやーあはは、とお茶を濁しててつこはトイレに行く。

そして席に戻ると、なんとドラマの展開のごとく

カイさんがてつこの席の近くに移動していた。

 

・・・

残念ながらそこで艶のある展開にはならなかった。

お久しぶりですーから始まって、昔話をするにとどまった。

ただ、

「てっちゃんは今幸せなのー?」

と聞かれて、てつこは「えぇ、まぁ、あはは」と笑った。

カイさんはぼそっと「俺、地方の実家に帰る予定なんだ」と言った。

寂しくなりますね、とてつこを含めた皆で別れを惜しんだ。

 

 

飲み会は解散し、一部のメンバーは夜桜を見に公園に戻った。

てつこもフラフラとついて行った。

めちゃくちゃ飲んだので千鳥足だった。皆もそうだった。

 

カイ「てっちゃん」

てつ「………なんすかー」

カイ「頑張れよ。幸せになー」

 

ヘラヘラとカイさんは笑っていた。

そのまま有志による夜桜会も解散になった。

 

帰りの電車の中、てつこは一人ぶつぶつとつぶやく。

「ずるい。ずるいですよ…」

 

こんないい歳になってから

こんなに日が経ってから

あなたのことが好きでした的な空気出すって、ずるいだろう。

若くて楽しかったあの頃に、なんでそういうこと言ってくれないんだ。

てつこは恋愛とか苦手だ。

異性からの気持ちや目線に気付いたり対応したりするのが苦手だ。

そんな干物女でも、やっぱり恋愛には憧れた。

 

 

何より。

カイさん、一時期あなたのこと、ちょっと好きだったんですよ。

だからそんなの、今更ずるいっすよ。

でもまぁ、幸せになりますよ。きっと。