てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

良心のこもった贈り物が人をつなぐ

先日でてつこは仕事で一区切り。

異動を見据えて別のチームに移ることになった。

お菓子を一人一人に配りお礼を言う。

相手も椅子から立ち上がってお礼を言う。

会社ならではの光景。悪く言えば社交辞令というか、形式的というか。

(自分でやっといて何言ってんだという感じだが)

 

そう思いつつも温かい反応があると嬉しかった。

「昔こんなことあって大変でしたよねー」「あーそうえいば!」と昔話を思い出させてくれた人。

あまり喋ったことがないのに「あの時手伝ってくれてありがとうございました」と頭を下げてくれる人。

中越しのチームなのに普段てつこの電話応対を聞きながら「丁寧な仕事をされてましたね」と褒めてくれる人。

てつこからの感謝の気持ちに対して、同じように感謝の気持ちで応えてくれた。

大人の世界の『良い例』を見られた気がする。

 

そしてその足でてつこはある買い物をした。

それは、腕時計。

 

自分への贈り物だった。

次のステージでも""適度に””頑張れるよう、決意の一品。

デパートに行き、立派な機械式のものを見たり

電波式のものを見たり、とても楽しい時間だった。

が。

今のこの前向きな気持ちが、いつかポキッと折れてしまうんじゃないか。

そんな不安も頭をよぎる。

たくさん裏切られてきたから、どうしても自分の心を守ろうとしてしまうのだ。

悪いことも同時に考えて、上がるテンションを抑えようとする癖。

楽しい時間の合間にもちょいちょい悪いことを考えている。

 

なんとか黒い気持ちを拭い去り、腕時計を購入した。

 

前向きな気持ちと後ろ向きな気持ち。

まるで学校や会社の新入生みたいだ。

 

てつこは普段腕時計をしていなかった。

個人的に仕事上あまり必要が無く、一本だけ持っていた腕時計は

化粧台の隅にケースに入れて飾られている。

それはてつ父が入社のときにくれたものだった。

 

ヘラヘラ笑うか酒に酔って無言か、どちらかがデフォルトのてつ父が

突然プレゼントを買ってきたのだ。

てつこの就活が終わり、内定をもらった頃だった。

小さな小さな包みを開けると

かわいらしい腕時計が入っていた。

嬉しくてありがとう!と礼を言うと、てつ父はいつも以上にニヤニヤしていた。

 

当時、もらって本当に嬉しかった。

気まぐれとは思いつつ、気遣ってくれたことが嬉しかった。

仕事がんばれよというメッセージなんだと思った。

 

自分で腕時計を買えるようになった今日、あることを思い出す。

『てつこは昔から腕時計が好きで集めていた』という記憶。

小学校くらいのころ、ホームセンターで1本1000円前後の

子供向けの腕時計をねだっては時々買ってもらった。

そうだ、自分は腕時計好きだったじゃないか。

そんな自分のことも忘れてしまっていた。

数本持っていた腕時計を愛おしそうに眺めていたではないか。

 

そこではっとする。

てつ父はそのことをまだ覚えていたんじゃないか、と。

だからお祝いに腕時計を選んでくれたのではないか、と。

 

てつこは自宅に戻りシクシクと泣く。

ごめんよ、てつ父。

昔のいい思い出を忘れてたよ。

あなたは覚えていてくれたのかな。

 

勇気を出して、てつ父に連絡をとってみようかな。

そんなことを思った怒涛の一日だった。