てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

勤勉少女と内気な女子大学生

てつこは学生時代、アルバイトで公文の先生をやっていた。

先生といっても小学生の答案に〇×つけるだけの簡単なお仕事。

その教室を開いている””本当の””先生は、

子ども自身に最後まで解かせるために

「ここはこうだよ」とか教えないようにてつこに指導していた。

そのため、ホントに〇と×を赤ペンでつけるだけで、

子どもたちとの触れ合いはほとんど無かった。

 

でも、今よりも内気で人見知りで子どもが苦手だったてつこにとって

これほどラッキーなアルバイトはなかった。

時給も良く、難しいこともなく、他の先生たちは優しく、

適度な夜の時間帯までバイトさせてくれるので居心地がよかった。

気付けば毎日のように採点していた。

 

その公文教室に、一人だけ大きい子がいた。

大きい、といっても背ではない。

高校生だ。

小学校低学年の子たちが賑やかな夕方が過ぎ、

外が暗くなり始めた頃、その子はそっと来て奥の端の席に座る。

 

相変わらず小学生の子たちは騒がしい。

走り回るわ、「できた!」と叫ぶわ、物は落とすわ、

たまーにおもらしする小さな子もいて、てんやわんやだ。

そんな中でも彼女は奥の方で黙々と教材を解く。

 

いつの間にか周りは中学生ばかりになり、静けさを取り戻す。

てつこ以外のバイトの先生たちは帰宅する。

教室が閉まる夜までは、本当の先生とてつこの二人体制だ。

そのくらいの時間帯になって、高校生の彼女はできた答案を

まとめて提出してくるのだった。

今思えば、小学生の対応で忙しい先生側に配慮していたのだろう。

 

てつこはそれまで知らなかった。

公文には高校生クラスの教材があることを。

彼女はそれを繰り返し繰り返し解いていた。

本当の先生曰く、高校生レベルの教材は全てやりつくしたとのこと。

どのくらいの数があるのかは知らなかったが、

全てやったのにはとても感心した。

 

一番感心したのは、彼女にはご家庭の事情があり

この公文教室でがんばりたいと本当の先生に伝えていることだった。

どんな事情かは聞かなかったが、何にせよ

教室が閉まるギリギリまでたくさんの教材を解き、

すぐ単語帳やキャンパスノートに書き込んでいる姿を見て、感動すら覚えた。

 

大学生のため一番「現役」に近いという理由から、

てつこは彼女の答案担当になった。

彼女はとても静かな子だった。お喋りは一切しない。

一方のてつこも喋らない。心の中では

「がんばれ!がんばれ!フレー!フレー!」

と熱くなっているのに、フフンと素っ気ない対応をしていた。

(あぁ、ちょっと気の利いたトークくらいすればよかった・・・)

 

ただ、彼女の頑張りにこちらも応えたくて、

細かいコメントを書いたりして役に立てるよう気を遣った。

彼女に伝わったかは全く不明だが、

それくらい気持ちを入れたくなる子だった。

 

一番心残りなのは、就活が忙しくなってしまい、

結果を知る前に公文の先生を辞めてしまったこと。

無事に希望の大学に合格したのか、もはや知る術はない。

 

彼女は今どうしているだろう。

会社員だろうか、主婦だろうか、フリーな感じだろうか。

いずれにしても、あの勤勉さが無駄になることはないはずだ。

「やろうと思って真剣に取り組むこと」

って意外と難しくて長続きしない。

それを高校生で実践できた彼女は、きっと強い人間になっている、かな。

 

どうか幸せでありますように。