てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

母という幻影

最近、てつ母の顔を思い出しにくくなってきた。

どんな顔だったかな。

どんな声だったかな。

どんな姿だったかな。

記憶が薄れてきたのだ。実の親なのに。

そうなりたいと願ってきた。忘れてしまいたいと思ってきた。

だからこれで構わない。

 

てつこが幼少期のてつ母は、てつ父に暴力をふるっていた。

てつこが小学校にあがると、教育ママになった。

てつこが中学校にあがると、友人関係のような母子になった。

てつこが高校生になると、てつ母は不倫相手と楽しむようになった。

てつこが大学生になると、いつまでも母子二人で暮らそうねとてつ母は笑った。

 

自分勝手なてつ母に、てつこは苛立ちつつも守っていた。

実の母だったから。

てつ母の言うことを聞き、機嫌を損ねないように気を付けた。

 

てつこにとって、母はどんな存在だったのだろう。

今思い出すのは、てつ父に暴力をふるっていた姿か、

てつこに背を向けてパソコンに向かい不倫相手とチャットをしている姿。

もっと思い出せば、コロッケを作ってくれた姿や

てつこの描いた絵を褒めてくれた姿が出てくるが、鮮明さに欠ける。

 

てつ母はいつもてつこに対して背を向けていた。

丸々と太った背中が、運動不足の背中が思い出される。

てつこはてつ母に背中越しに今日あったことを喋りかける。

反応はあるものの、こっちを向いてはくれなかった。

こっちに向くのは、てつ母がてつこに喋りたいときだけだった。

どんなお喋りだったのか、あまり覚えていない。

 

母なる者は娘に何をもたらすのだろう。

衣食住を管理しているので安心感をもたらすかもしれない。

親として経済的な安定を提供してくれるかもしれない。

何より、深い愛情を示してくれるのかもしれない。

てつこはなんとなくわかるが、でもあんまりわからない。

 

てつ母は女性として育っていくてつこを少しからかっていた感がある。

てつ父に似ている部分をけなしたこともある。

てつ母が自分の不倫相手をてつこにあてがおうとしたこともある。

女性同士であるがゆえに、母子というよりも友人のような

奇妙な関係性になっていた気がする。てつ母とてつこは。

 

書き出してみても、てつ母に対する考えがまとまらない。

奇妙であり、興味深くもある。

これほどてつこが執着するのは、母と言う幻影に魅せられているからか。

 

薄れていく記憶の中で、何か大切なことに、

何か忘れていたことに気付きそうな予感もする。

少しずつ頭を整理していこう。