てつこはじと目でなにを見る?

おかしな家で育ったおかしな娘が書く読み物

親不孝娘と非力な父の、見果てぬ夢。

数年連絡を絶っていたてつ父から突然着信があった。

何事かと驚くてつこ。

恐る恐るかけ直すと、なんてことはない、

最近どうか?という内容だった。

 

てつ父らしいと思ったのは、かけてきた理由。

普通の親なら「あんたが電話くれないからかけたのよ!」とか

「元気にしてるか心配になって」とか言うのだろう。

てつ父は違った。

「ケータイいじってたら間違えてかけちゃった」

 

・・・そうか。

がっくし、とうなだれるてつこ。

何故そこで素直にならないのだ・・・。

それがてつ父の不思議なところ。

ちょっと違う格好のつけ方をするのだ。変な気の使い方というか。

 

てつ父は昔から不思議な人だった。

話しかけても返答が無いので会話にならず、何を考えているかわからない。

同じ食卓についてもご飯を食べずにお酒を飲み、やっぱり会話はない。

機嫌が悪くなるとてつ母を家から閉め出したり、

出かけ先でてつこを置き去りにして家に帰ったり、

無断で欠勤したり、

『気分』で物事を決める人だった。

 

今回の突然の電話も『気分』だったのだろう。

きっと寂しくなったに違いない。

 

親不孝者のてつこは今回の件があっても、てつ父と会う気になれない。

まぁたまには電話してみようか、という気持ちにはなったものの

直接会って話をしたり食事をしたりする気持ちがわかない。

 

父への愛情が、ない。

 

一切ないわけではない。

心配だし、一人でいるのは寂しいだろうと思う。

だが、それ以上の「情」がわかない。

他人事のような感じ。

そんなには親しくない友人から久しぶりに電話があって、

昔を懐かしんで会話をした。今度会おうねと言って実際は会わない。

そんな感じ。

 

てつ父は数年前突然仕事を辞めた。

貯金を切り崩し、一時はてつこと暮らすことを望んだ。

てつこはそれを断った。

それから疎遠になり、今に至る。

疎遠になるときははっきりとしたきっかけもなく、なんとなく、だった。

 

てつことてつ父の間には「意思疎通」というシステムがない。

お互い何を考えているかわからない。

お互い何を喋っていいかわからない。

お互い気を遣って話がかみ合わない。

その証拠に、今回の電話も沈黙が多く何を話せばいいか互いに困った。

 

正直に言うと、てつこはてつ父が苦手だ。

あのだんまりと、時々ニヤニヤする表情が『何を考えているかわからない』。

だから苦手だ。

 

二人の間にはきっと永遠に埋まらない溝がある。

それは子供時代に構築できなかった信頼関係のせいか。

それともお互いがまだ大人でない証拠で、これからやろうと思えば良い関係が築けるのか。

どちらが正解なのかはわからない。

ただてつこの心の中ではっきりしているのは、

てつ父とコンタクトを取ることに困惑しているということ。

得体の知れないもやもや感が生まれたということ。

 

しばらくは「適度に距離感を保つ」ことに専念すべきなのだろう。

振り回されることなく、冷静に対応すること。

こう考えている時点で、てつことてつ父は健全な父子関係ではない。

それでも親子の縁は切っても切れないものなんだと痛感するのであった。